「if…」(庵×真吾)
「あれ?八神さんだ!!こんにちは!」
「矢吹…だったな」
夕暮れの街中。
学校帰りの真吾は、八神庵に会った。
「偶然ですね!八神さん、バイトの帰りですか?」
「…そうだ」
違う。
オマエに会いたかったんだ。
…だから、オレはこの道を通ったんだ。
一年前に、オマエと初めて会った場所を。
「オレも今学校の帰りなんですよ。草薙さんに修行つけてもらってたら、こんな時間になっちゃった」
「奴の名前は出すな」
「あ、ごめんなさい。…仲悪いですもんね、八神さんとは…」
違う。
オマエの口から、奴の名前を聞きたくないんだ。
それは…。
それは……。
庵の心情も知らずに、真吾は明るい表情をする。
「最近は日が暮れるの、早くなって来ましたね。もう秋かなー。八神さんは夏と冬、どっちが好き
ですか?」
「…どちらも好きではない」
「え?じゃあ春とか秋が好きなんですか?」
「オレは…秋が好きだ」
「ふーん…八神さん、やっぱりバンドやってるだけあって芸術家なんですね!芸術の秋が好きなのかな?」
「……そういう事にしておけ」
…違う。
矢吹、オマエに初めて会ったのが…秋だったからだ。
そうだ。秋のあの日だ。
夕暮れの時間に、この近くの公園でオマエを見た。
その時から忘れられなかったと言ったら、オマエは信じてくれるか?
オマエが草薙を慕う弟子だと知って苦しんだオレの事を、…信じてくれるか?
いくら強く強く想ってはいても、口に出せない。
もしも…オレがこんなに好きなのが、真吾…オマエじゃなかったら。
草薙を師匠だと慕っている、オマエじゃなかったら。
…オレは、こんなに苦しみはしない…。
庵が苦しくて、仕方なくて、悩んでばかりなのに。
それでも。
隣の真吾は何も知らずに、…笑顔だ。
「あーあ、腹減ったぁ。ウチは今晩何だろ?…八神さんは晩飯、何にするんです?」
「そうだな…ある物で食う事になるだろうな」
「スゴーイ!ある物で食べられるって、結構難しいですよね。オレなんて何も無かったら戸棚探して、
ツナ缶とかコンビーフ缶開けちゃいますもん。ソレで白いゴハン食べますよ」
「…オレもそんな物だがな」
「あはは、ゴハンにツナ缶とコンビーフ缶は基本ですよね!マヨネーズかけたりして」
「七味唐辛子をかけても美味いと思うが」
「あ、ソレやった事無いです!美味そうですね…さっそく試してみよー♪」
こちらの気持ちなんて何にも知らずに…にこにこと笑う真吾を見ていると、
『いっそ自分だけの物にしてしまいたい』
…いつも考える。
でも、そうしてしまったら。
この笑顔はきっと消えてしまうだろう。
だったら、このままでいてもいいのではないだろうか…そう思う自分と。
いや、もっと近くに行きたい…そう思う自分がいて。
ただ、苦しい。
…もしも、オマエじゃなかったら…こんなに苦しまない。
そうだ、
『もしもあの時、オマエに会わなければ』
そんな無駄な事は、もう何度考えたかも知れない。
考えて、考えて…結果、出た結論はひとつ。
『もしも』等といくら考えても、今となっては…もはや何も変わらないのだという事。
いくら胸が痛くても。諦める事など出来なくても。
もう自分は、オマエしか見えないのだという事…。
だから。
「……なんですよ、八神さん!…だからオレ的にはやっぱり冷凍うどんはタレとかが全部
付いてる奴より、麺だけの奴を買って来て自分で好きなように味付けした方が、ずーっと美味いって
思うんですよねー♪」
気づくと、真吾の話を聞いていなかった。
…庵が話を聞いていなかった事に、真吾本人は気づいていないようだが。
「……そうか」
「あ、そんな事どーでもいいって思ってるでしょ?駄目ですよー!人間何が大事って、
毎日の食事ッスよ!?生活習慣病なんかになりたくないでしょ?怖いんだから!」
そんな話をしながらも少し真面目な表情をして、真吾が庵を見る。
自分を見る真吾に、庵は心を決めた。
もしも。その時も…オマエがひとりなら。
ひとりでいたなら…。
この想いを…。
「…矢吹」
「何ですか?八神さん」
「明日は、」
「明日ですか?」
「…この道を通るのか?」
今までしていた
話の筋道からは完全に離れた問いかけに、真吾は訳も判らずにぽかんとしてしまった。
しかし庵の真剣な表情を見て、今度は言葉に詰まってしまう。
いつにない庵に真吾は迷ったが、
「あ、明日は…通ります!だって、通学路だし!」
とだけ、ようやっと答えた。
途端に庵が、…視線を外す。
「だったら、この道の途中の公園は判るな」
「は、はい!判りますけど…」
「そこの時計の前、5時半だ。…来い」
「……え?も、もしかして…果し合いとか!?じゃ、ない…ですよね?」
「…全くもって違う。そういう意味では貴様は役不足だ。…違う意味で用がある」
「…違う意味…?何です?」
ただただぽかんとする真吾に、庵はさらに、
「気になるなら来い。…待っている」
とだけ言い残すと、…真吾のいるその場を離れた。
翌日、庵が指定した場所。
半ば諦めながらも、…庵はその場所に向かった。
…きっと矢吹真吾は来ない。
草薙の弟子で、奴を師匠として慕っている矢吹は…師匠の『敵』などの誘いには、乗らない。
せいぜい街中で話をする程度。
それだけで自分は幸せだったのに…気づいたら、それ以上を求めている自分がいた。
叶いはしないのに。
だから…それ以上の事も、この気持ちも、
『諦める』
何度、そう自分に言い聞かせただろう。
それと同じ数だけ、矢吹真吾を『愛しい』と、思ったのだろう。
だから…もう、決めた。
今日、矢吹真吾が来ないなら。
来たとしても、誰かと一緒なら。
今度こそ、諦めると。
そんな事を考えながら庵が時計を見ると。
時間はもう待ち合わせよりも、…15分過ぎていた。
やはり、諦めるしかなかったんだ。
ため息をついて、そろそろ帰ろうとした時。
「八神さぁーん!!やぁーがぁーみぃーさぁーんッ!まだいますかぁ!?」
……矢吹真吾だ。
自分に向かって走って来る姿は、他に誰も一緒じゃない。
ひとりだ。
真吾は庵の前に来て、肩で息をしている。
「ごッ、ゴメンナサイ!…もッ、遅くなっちゃって…!草薙さん、がッ、珍しくしゅぎょ…、丁寧にッ、
つけてくれて…、ああ、名前出しちゃってスミマセン!!とにかくゴメンナサイ!!」
「矢吹…、オマエひとりなんだな」
「はい?ええ、オレひとりッス!…ああ、疲れたー!さすがに駅から全力疾走はツライですよ…。
遅くなっちゃって申し訳ないですけど、八神さんのお話、聞きます!何でもお聞きしますよ?」
もしも、オマエがひとりなら。
もしも、これが醒めない夢ならば…。
もしも、オマエを知らなかった頃に戻れないのならば。
この想いを…。
「矢吹、…聞いて欲しい」
「はい!今日はオレ、八神さんの話を聞きに来ましたから!何でもどうぞ?」
「オレは、……」
今までの想いを全て込めた、…庵の言葉に真吾は驚いた。
ひどく驚いたが…。
その後の問いかけには、
「八神さんが、オレなんかでいいなら。…一緒にいます。だって、そんな風に想ってもらえてたって…男同士だけど……嬉しいし」
照れくさそうに笑った。…それが、答え。
―もしもオマエじゃなかったら、こんなにも苦しまない。
しかし…もしも、オマエじゃなかったら。
こんなに、愛せない。
もう、オマエしか見えないのだから…。
・・・・・・・
お…遅くなってゴメンナサイですιι
よーやっと何とか、って感じですが…庵真ッス!
D/A P/U/M/Pの「if…」は実に実に庵真!なのですが、キサラギのチープな脳ではこの程度…ああι
時雨さん!こんなんでよろしければお受け取り下さい〜ιι