『キミと空と』


「K'さん聞いて下さいよ〜っ!草薙さんがー!!!」

ここはKOFの会場から少し離れたホテルである。
廊下の向こうから走って来たのは矢吹真吾。
俺のトモダチだ。

(まぁ俺はトモダチとは思ってないけどな)

何故か目に涙を溜めている。

「どうした?また酷いことでもされたのか?」

真吾はガシッと俺、K'の肩を掴んでブンブンと振り回した。

「酷いってもんじゃないッスよ!!
俺が牛乳飲めないのを知ってるのに
無理やり1パック一気飲みさせようとしてくるんです!!
八神さんも牛乳は健康に良いからって助けてくれないし…」

(平和だなー)

振り回された所為で頭が少し朦朧としているが、K'は和んでいた。
真吾の必死の形相に可愛さを感じつつ…。

「で、俺にどうして欲しいんだよ?」

俺がつっけんどうに返してしまうのはいつものことだ。
真吾もいつもは気にはしていないようだったが…
今日は違った。

「K'さんは真面目に聞いてくれる気があるんですか!?」

突然の真吾のヒステリックな声に驚く。
へぇ、こいつでもこんな風に怒る事があるんだな。
新しい発見をしたと思っていたら、真吾は急に踵を返して

「もういいです!!K'さんに相談したのが間違いでした」

と怒って走り去ってしまった。

「…何なんだよ…ったく」


…喧嘩か…
俺にも誰かとこんな風にしょうもない事で喧嘩する日が来るとはな。
組織に居た時は喧嘩などというそんな甘いものはなく
命の取引ばかりだった。
生きることで必死だった日々。
ちょっとは進歩したってこと…か?



KOFに出場するまで人の事を考える、なんていうそんな面倒なことは避けてきた。
でも初めて出たKOFにはアイツが居た。
炎を出せる様になりたい!
毎日そんな事を言っているアイツが鬱陶しかったな。
俺の後を金魚のフンみたいに付いて来て、

「どうやって炎を出せるようになったんですか!?」

…正直ウザかった。
マキシマは笑って見てやがったしな。
何でこんなヤツなんかと…

「知らねぇよ。付いて来んな」

それからもアイツは毎日毎日ずーっと話しかけてきた。
他愛も無い話、炎の話、草薙の話、草薙の話、草薙の話。
9割方草薙の話だった気がする。
詩の朗読をさせられるとか、パンにも好き嫌いが有るとか、意地悪だとか、カッコイイとか…
殆んどアイツが話していただけだが、
日が経つにつれそんなアイツとの会話が楽しいと思うようになった。

「K'さんて、何でも相談できる親友って感じッスね。
これからも悩みとか聞いてもらえますか?」

親友…

何でこの言葉がこんなに心に引っかかるんだ?
初めてできた友達…良いじゃねぇか。
友達。
トモダチ…

「俺が聞かなくてもお前が勝手にベラベラ喋るんじゃねぇか」

「あ、酷い。でもそうッスね!あはははは」

真吾はいつもの笑顔を浮かべていた。
太陽のように暖かくて優しい顔。

あぁ、あのままこの気持ちに気付くこと無く
一緒に居られたら良かったのにな。

「俺はお前の事を友達だなんて思ってない」

そう、俺はお前の事を友達だなんて思えない。

「え…そう、ですか…」

悲しそうな顔。
一瞬にしてしょんぼりとなるその顔。

「……とは思っているが」

ぼそりと呟く。

え?、と真吾が聞き返してくるが俺は二度言うつもりはない。

絶対にもう口には出さないつもりだ。
ずっと一緒に居られるだけで良い。
でも、それは叶わないかもしれない願い。
組織がどうなるか、次第だな。

それから色々あった。

クリザリッドの存在、ネスツの陰謀、草薙との関係…。

真吾とは別れの言葉も無いままに離れてしまっていた。

再び会った時の彼の顔を俺は一生忘れないと思う。
涙と鼻水をダラダラと流しながらしがみ付いてきた。

「けーだっしゅさぁぁぁん!!!!しんばいしだんですがらーーー!!!」

何語だよ、全く。
ニヤニヤとこっちを見てくるマキシマは無視しておいて、
俺は真吾の頭を撫でてやる。

「あー…分かった、分かったから泣くな」

マキシマが持っていたハンカチを奪って真吾の顔を拭いてやる。

本当にコイツとずっと、一緒に居られたら良いのにな。



真吾が走り去った方を見ながら、K'は回想に耽っていた。
その時、後ろから急に肩を組まれる。

「珍しいな〜、廊下の真ん中で考え事か?」

見なくても分かる。
マキシマだ。

「マキシマ、重ぇよ」

マキシマはおっと悪かった。と手を退ける。

「考え事じゃねぇよ、ちょっと思い出してただけだ」

ニヤリ、とマキシマは不敵に笑い、してやったりな顔で

「矢吹少年の事か〜。さっき喧嘩してたもんな。
どっちかつーと矢吹少年の方が一人で怒ってただけみたいだったが」

てめぇ…見てたんじゃねぇかよ。その立派な眼でよ。

「ちっ…見てたんなら聞くな」

ホント性質悪いゼお前。

「まぁまぁ、そう怒るなって。で、追いかけなくて良いのか?」

……追いかける、べきなのか?
追いかけてそれからどうする。

俺は、アイツの事…
気が付いたら走っていた。


真吾は一人で外のベンチに座っていた。

「K'さんに八つ当たりなんて…俺、サイテーだ…」

膝を抱えて縮こまってブツブツと独り言を言っている。
俺は、そっと隣に座る。
真吾はビクッと肩を竦めた。

「悪かった」

手を真吾の頭にポンと乗せる。
しばらくの沈黙の後、話し出したのは真吾だった。

「99年のKOFの時、俺、K'さんに友達じゃないって言われました」

コイツ、覚えていた…
そっと顔を上げた真吾は俺の方を見る。

「俺の事、友達じゃなかったら何て思ってるんですか…?ただの知り合い?」

違う。
そんな事は思ってない。
ただ、この気持ちを明かしてしまうと…

怖い。

お前の反応が。

「違う、ただ、友達だとは思ってない」

また真吾の悲しそうな顔。

言えるならどんなに楽だろうか…

言って…しまおうか?

「俺がお前の事をどう思っているか言ったらお前は絶対困る」

そうだ、困らせるだけ。
だから言わない。
絶対に…

「困りません!俺は今の中途半端なままが嫌なんです!!本当の事を知りたいです。」

コイツ…

分かって言ってんのか?
俺がこの言葉を言ってしまったら、お前…

口からフッと笑いが漏れる。

「責任。ちゃんと取れよな」

キョトンとする真吾を抱き寄せる。
そして、そっと口付けをした。

口には出さなくても、この意味がわかるだろ?

言葉にしなくても。

耳まで真っ赤になった真吾はしどろもどろに言葉を発した。

「え、えーっと…その…コレは…」

くそ、俺まで赤くなるだろうが。

「そーゆー事だ。だから、責任取れよ」

押し付けがましくても良い。
コレが俺の気持ち。
否定されたってしょうがない。
だが、今まで言えなかった分すっきりした。

しばらくぼーっとしていた真吾だったが、急にこちらの方に体を向けた。

「け、K'さんも責任、取って下さいよ?」

そう言って口付けを返してきた。

俺達は晴れて恋人になれたって訳だ。

な?"トモダチ"じゃなかっただろ?


「そういや、草薙がどうとか言ってたが解決したのか?」

真吾はあははと笑い、もう良いんです。と言った。
そしてそっと俺の手の上に手を重ねた。

雲一つない空には太陽だけが輝いていた。
まるで真吾の笑顔のようだと、K'は眩しそうに見上げていた。




END



はい、またアホップル誕生話みたいな感じに…
実は前からポチポチ打っていたものです。
最初はまた友達関係のままで終わらせようかと思ったのですが、
それだとK'が余りに不憫なので(笑)
いや、一回は両思い小説書きましたね!確か(オイ)


漫画の方では友達だと思われ続けると思います。(笑)

字が見えにくいなどありましたら拍手などでご指摘下さいませ〜。

2007.7.12

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