もう一つのチームストーリー。


「…来てくれるかなぁ?草薙さんに八神さん‥‥」

 チラッと自分の腕にはまっているデジタル時計を見る。
まだ予定の時刻に時計の針は到達していなかった。

「ハリキリ過ぎて時間よりも早く来ちゃった。
でも、いよいよ今日からKOFが始まるんだ‥‥!」

毎年恒例のKOFも今回で11回め。真吾にとっては8年目の参加となる。

KOF=いわく付きの大会

ということは参加メンバーにとってはもはや常識である。
前回のKOFもやはりただの大会ではなかったらしいが、
最後まで勝ち抜けなかった真吾にはよくわからない。
京と紅丸がやたら難しい顔をしていたのだけは覚えている。
だけど、大会のバックに誰がいようがどんな思惑が隠されていようが関係ない。
ただ、強い相手と闘って自分の実力を試すのみだ。
難しいことは考えてもよく分からなかったというのは自分だけの秘密だ。

「そろそろ時間だ‥‥」

もしかしたら、来てくれないのかも。


‥‥‥‥‥‥‥‥。


なんて考えてたらすっごく不安になってきた!

草薙さんはどうせ遅刻してくるだろうからまだ期待は持てるけど、八神さんは‥‥

そこまで考えて真吾は溜め息をついて、地面を見つめる。

「やっぱり、俺じゃダメだったのかな?」

「何がだ?」

「草薙さんと八神さんのことっスよ。
二人の仲を取り持つなんて
神楽さんじゃないんだから俺には無理だったのかなって」

「当たり前だ。誰に言われようとヤツとじゃれあうなんてゴメンだ。虫唾が走る」

「そうっスか‥‥へ?」


俺は今、誰と話しているんだろう。
視界には自分の靴の他にもう一足、黒い靴が見える。
恐る恐る顔を上げていくと、
徐々に足と足の間がつながった赤いボンテージパンツに裾の長いシャツ、
ショートジャケットが見えてくる。
ようやっと顔を正面まで持ち上げると…

「や、八神さんっ?!」

「ああ」

そこにいたのは八神庵当人に他ならなかった。
俺は目を白黒させてパニックに陥る。
何せ諦めかけていた人物が今目の前にいるのだ。
驚きのあまり、言葉が無意味に飛び出してしまう。

「どどどどうしてここにいるんスか!?」

「どうしても何も、お前がここに呼んだのだろう?」

慌てふためく真吾とは違って庵は悠然と腕組みをして立っている。
今更何を、といった感じで軽く首を捻っている。

「そそれはそうなんですけど‥‥!
じゃ、じゃあ一体いつからここにいたんですか?!」

「…ついさっきだ」

「いるならいるって言ってくださいよぉ〜!ビックリしたじゃないっスか!!」

「一人で何やら百面相をしていたのでな。
邪魔をしては悪いかと思っただけだ。それにちゃんと声はかけただろう?」

庵は悪びれもせずにしれっと答えてみせる。
そうじゃなくて声をかけるっていうのは

「おい、真吾」とか

「元気でやってるのか?」とか

「何してるんだ?」とか

「暇だったら付き合え」とか

「二人で遊びに行こうぜ」とかとかとか…!

思っても言えない真吾である。
途中、変なのが混ざっていることにすら気付かないほど気が動転していた。
ひとしきり騒いだ真吾もようやく落ち着いてきたらしく、胸に手を当てて息をつく。

「八神さんの登場は心臓に悪いっス‥‥」

そんな様子の真吾をじっと見つめる庵。
その視線と目が合った真吾は首を傾げた。

「何スか?俺の顔に何かついてます?」

「約束は覚えているな?」

庵の言葉にきょとんとする真吾。
八神さんと約束‥‥何かあったかな?

「え〜‥と‥‥その」

「覚えていないのか」

「アハハ、すみません」

「師が師なら弟子も弟子という訳か…」

今度は庵が視線を外し、溜め息をつく。
それはただ単に呆れただけだったのだが、
真吾からすれば怒っているように見えた。
自分のことで師匠(自称/笑)のことまで言われるのは心外だが、
今はチームの方が大事だ。
出場出来なければ元も子もない。
チームを解消されるのではないかと焦り、慌てて言葉を吐き出す。

「あ、あのっ。俺に出来ることがあれば何でもしますから!
チーム解消だけは…!」

「…何だ、覚えているではないか」

庵の口元に小さな笑みが浮かぶ。
それはいつも庵がしているような怖い(真吾談)笑い方ではなく、
自然と出てくるような口角を少し上げただけの微笑みだった。
とてもとても小さなものであったが。
必死に庵を引き止めようと詰め寄るように接近していた真吾は、
バッチリその瞬間を目撃していた。


え‥‥八神さんが笑っ‥‥‥‥えーっ!!


「その約束さえ果たせばチーム解消はしない。
ヤツと組むのは腹立たしいがそれ以上に利益があるからな。クククッ…」

約束というのは、
おそらくチームを組んでくれるように頼みに行ったときのことを指していたようだ。
どうしても京と同じチームを組んで欲しくて、
それらしき言葉を言ったような記憶がある。

まだハッキリと思い出せないが。

その何か含みがある黒い笑い方に真吾はホッとした。
変な話だが、こういった庵の方が見慣れているのだ。
さっきのように微笑まれると心臓に悪い。
京なんかが見たらフリーズすること間違いなしだ。
今でも見間違えか何かなんじゃないかと思う。

庵の笑みに気を取られていた真吾はその言葉の危険性に気付いていなかった。
庵にとって一体何が利益になるのか…
この後に起こることも想像だにしなかったに違いない。
哀しいことに、真吾には危機察知能力とはとんと縁がないのだ。
無邪気に自然体で庵と接している。

「それで、俺は一体何をすればいいんですか?
あっ草薙さんに危害を加えるようなことはなしっスよ?
俺自分の命が一番大事っスから‥‥」

「そんなことは最初から期待していない。
まあダメージは与えられるだろうがな、ククッ」

「‥‥‥‥‥?」

一体何をやらされるんだろう…?
相手は八神さんだし、
それに八神さんの言うことを聞けば草薙さんに怒られるだろうしなぁ。
前門の八神さんに後門の草薙さん

‥‥早まったかな、このチーム。

やっぱり紅丸さんに無理言って入れてもらえば良かったかも。
早くもチーム編成に後悔を感じつつ、
最後の審判を待つ気持ちでじっと庵の言葉を待つ。
思わず身体に力が入ってしまう真吾に
庵は眉を寄せて少し困ったような顔をする。

「そう身構えるな。大したことではない」

「な、何スか…?」

庵はじっと真吾を見下ろしている。
真吾も庵と真っ直ぐに視線を合わせる。

人の話を聴くときは目と目を合わせるのが基本だと、
小さい頃から母や姉に厳しく教わっている。
どんなに怖くても視線を逸らしてはいけないことを
真吾は今までの経験から知っていた。
次の言葉を待っている間、ふとあることに気付く。

 あ、八神さんの目ってよく見ると綺麗‥・・

「簡単なことだ。ただ、俺の傍にいればいい。
京に呼び出されても無視しろ。俺の傍を離れるな」

「・・・・・・・・・・・・へ?あ、あの、それってどういう意味っスか??」

いつの間にやらボーッとしていたせいで聞き逃してしまったようだ。

まだ頭がうまく回らない。
八神さんは今、何て言ったんだろう。

『お〜、いるいる』

「え?あ、草薙さん!!」

 道路を1本挟んだ向こう側に京の姿が見つけ、ホッとする。
あと1分もしないうちに此処に来ることが出来そうだ。

 来てくれたんだ・・・・良かったぁ。

これでKOF出場に必要な3人のメンバーが揃った。
つまり、晴れてKOF出場が決まったのである。
真吾は感極まって大粒の涙を目に溜めていた。
ちづると自信たっぷりに約束した大役を無事果せたのである。
本番はまだまだこれからだと分かっていてもその達成感は大きかった。
その時、真吾の意識は完全にその他のことから逸れていて、
さっきとは打って変わった仏頂面で真吾を見つめていた庵に
全く気付くことが出来なかった。
後に京が言うには『お前は警戒心がなさ過ぎる』んだそうだ。
そのことを真吾はこれから身をもって体験することになるのだが…

「・・・・一つだけ言っておく」

「え…?ッッ・・・・!?」

『あ゛ぁ?!』

ペロッと。
庵は振り向いた真吾の大きな目に溜まった涙を舐め取った。
その瞬間を二人のほんの近くまで来ていた京も目撃して思わず叫ぶ。
真吾は悲鳴も驚嘆の声も上げることが出来ずに、
大きな目を丸くしてフリーズしている。
何が起こったのか理解できないようだ。 その状況を作り上げた当の本人は、
固まってしまっている真吾を面白そうに眺めた後
その背に掲げた鋭く尖った三日月のごとく口角を吊り上げる。

「俺から逃げられると思うなよ?」




…………やっぱり早まったかも、このチーム…………




目の前で始まった喧嘩を宥めることもできずに、
ただただ紅丸を懐かしく思い出す真吾だった。



おしまい☆




巳薙様より頂戴致しました!!
相互記念小説であります!!!
KOFXIのチームストーリーのその後のお話です。

八神さん積極的ーーー!!!(叫)
ウチのヘタレとは大違い(苦笑)
真吾は絶対何が何だか分からないまま襲われちゃ(強制終了)
本当に素晴らしい作品をありがとうございますvv



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